免停の講習で死にそうになった話
ブログの本筋からは逸れますが、全員が全員経験はしないであろう体験を共有してみたくなった。
皆さんの人生で一番楽しかった思い出はなんだろうか。
親友と馬鹿した時?恋人と結ばれた時?部活動で成績残した時?
一通りそれらの経験をした私が、今までの人生で一番楽しかったことが「免停講習」だったことは可笑しいだろうか。
優良ドライバーならば絶対に縁のないそれは、マイナス要素にしか思えないはずだ。
しかし細かい違反を重ねてそこに行った俺は、講習を終えて思ったのだ。
「最高のエンタメだった」
と。
結論から言う。つまり免停講習ってものは
「リアル笑ってはいけない免許センター」
なのだ。
別に笑ってタイキックをされるわけでもないのだが、「お前らをこのまま野放しにしてたまるか」の烙印を押された数十、数百の人間が一同に介し、明日の免許返還を求めて講習を受けるのだ。
笑える要素などない。そう思っていた。
僕は営業職で携帯電話の違反を繰り返して講習を受けるに至った。
運転してても電話は引っ切りなしに鳴る。
会社の事務員は留守電に要件を伝えてくれる中、得意先は留守電をしてまで要件を伝えようという人はいなかった。
電話に出れば
「何時に来れるんだ?客が待ってんだよ」
と催促され、怒られる。
いちいち停車なんてしたら納品は更に遅れる。
ちなみに時間指定の納品というケースもあるが、それは大体事前に言われる。
得意先からの電話はほぼ100%
「早めに持ってこいとは言わなかったが、今言おう。大至急納品しろや。」
なのである。
一応ハンズフリーを導入したものの、焦れば直接出てしまう。身から出た錆だ。
こうして会社に頭を下げて有休を貰った俺は免停講習にやってきた。
事前に調べた免停講習は2パターンあり
・朝から夕方まで講習を受け、テストに合格する
・朝からゼッケンを装着して夕方までゴミ拾いをする
の2パターンだった。
選べるのならば後者しかない!と会場についた俺は手続きを済ませたが、ゴミ拾いなんてものはなかった。
しょうがない。しっかり講習受けてテスト受かろう。
そう言い聞かせて教室にはいった。
当たり前だが、履修対象者の年齢性別はかなり幅があった。
主婦、サラリーマン、なるべくしてなったような不良、定年迎えてそうな初老。
それぞれがそれぞれの理由で独りで勝ち取りにきてた。
独りで。
独りだし小学生でもないので周りの人話しかけるわけもなく、休憩時間はそれぞれLINEや電話をしていた。
「だりー」とか電話で喋っている人が多い。
そんな中、確かにいたのだ。
友達同士で来ているヤンキー二人組が。
あり得ない。「一緒に行こうぜ」なんて場所じゃない。
衝撃だった。
2人は仲良く教師でボソボソ喋っていた。
そんな中、講習開始と同時に50代くらいの白髪の男性が席を立ち、口を開いた
「こんな講習が一日かかるなんて聞いてない。ここに来たら免停解除されるって書いてあったじゃん。講習なんて聞いてないよ。」
空いた口が塞がらなかった。俺たちは番号で呼ばれる。(以下、こいつを囚人と呼ぶ)
まさに囚人が看守に食ってかかったのだ。
屁理屈にもほどがある。教官も
「研修があるって郵送物に書いてあるから確認不足っしょ。嫌なら帰れ。」
と突き放し
「帰るなら免許返せ」
と囚人が言う。
10分近く揉めてようやく落ち着いた囚人は席についてようやく講習がはじまった。
教官はわかりやすかった。
「みなさん、今日のテストに出そうなところは、私が必ず講習中に申し上げますから、寝ないで最後まで聞いてください」
その言葉の通り、教官はテストに出る部分を全て教えてくれた。
それは…果たしてどうなんだろうな笑
座学はそんな形でスムーズにいった。
問題は実技試験からだった。
実技試験といっても、ゲーセンの湾岸ミッドナイトとか頭文字Dの筐体みたいなマシンを使って行われる。
実技部屋には筐体が、ずらり50台くらい並んでいた。
もちろんゲーセンみたく峠を攻めに行くわけではないので安全運転が要求される。
やれアクセス踏めだ
やれ時速40キロだ
機械のやりたい事を我々が実施しないと警告がでるのだ。
そう、つまりフラグを回収しないと次に進まないのだ。
そして「次に進む」という事は事故チャンスなのだ。
なんとなく感覚で車を走らせていると、時速40キロに達していなかったみたいで警告がでる。
画面に映る時速を参考に40キロまでアクセルを踏む俺。
40キロに達しようとした時、前方の筐体から
キィぃぃぃぃぃぃ!ボン!
という衝突音が聞こえた。
それを皮切りに様々な筐体から衝突音が響く。
衝突音のユニゾンのようだ。
よくパンデミック物の作品にある
これから世界が終わりに向かうあの絵面が頭をよぎる
俺はまた
40キロ出せやボケ
の表示が出てしまい、慌ててアクセルを踏んだ。
40キロが出た所で急に登場する通行人。
皆からだいぶ遅れて俺の筐体から衝突音が室内に木霊した。
死にたい。
周りを見渡すと、通行人を跳ねたであろう人たちは顔が真っ赤だった。
そして終末世界のはじまりの衝突音の連続に笑いを堪えてる人達がいた。
続く筐体を用いた実技試験は皆かなり慎重だったが、かなりシビアな判定のため、衝突音のユニゾンや木霊は後を絶たなかった。
もう腹がちぎれそうだった。
特に木霊と称したソロは笑ってはいけない状況では反則に近い破壊力だった。
となりのお兄さんが腿をつねって笑い堪えてるのが更に俺を苦しめた。
皆、人をはねてしまった恐怖で身体が震えてるわけではないのである。
地獄だった。
もうスタート直後の平和なドライブの段階で吹き出してしまう人もいた。
実技試験を終えて最初の教室に戻ってきた時、皆の息はなんでかな切れていた。
俺が特に。
こうして講習の山場を超えた俺たちは、残りの座学を終えて、嘘みたいに簡単なテストを終えた。
教官から
「合格した人にはこの後免許証をお返ししますけど、本日はまだ免停中だからね。たまに車でこっそり来てテスト合格した帰り道に事故って詰む奴がいるから今日は何がなんでも運転しないほうがいいよ!では不合格者の番号を読み上げたほうが早いから発表します」
緊張の一瞬
不合格者が一名、番号で読み上げられた。
二人組ヤンキーの片割れだった。
もう片割れ、空いた口が塞がってない。
もう笑いを堪えるのは沢山なんだよ!
教官が言う
「合格者は部屋を移動して返還手続きします。不合格者は別途ご案内がありますから、残ってください。
あと屁理屈こいてた50代の囚人は合格したけど所長がお呼びだから面貸せや。逃げんじゃねーぞ。」
だからもう笑いを堪えるのは沢山って言ってんだよ!!!
こうしてリアル笑ってはいけない免許センターが終わりました。
笑っちゃいけない状況で笑ってしまう。
まさに今有料の動画配信サイトでそんな作品がヒットし、シリーズ化されています。
笑っちゃいけないから面白いという場面は古来からあったはずです。
中には笑ってしまい粛清された人もいたでしょう。
そんな状況を楽しめるこの国と時代に感謝します。
正直また行きたいです。
運転トラブルを起こした某元都議会議員は、4回免停をくらってるようです。
免停ではないけど講習を格安で受けさせてもらえるプランはないですか?
おしまい